記事紹介
株式会社めぐり様の10周年記念に、弊社代表の仲間がペストリーうんてんでおなじみのミャンマーコーヒー!のマイクロファイナンスを行っている株式会社ワラム代表の加藤侑子さん、そしてめぐり代表、杉本綾弓さんと「めぐる」について対談を行いました。
下記よりぜひご覧ください。
【meguri10周年連載対談session1】ひとりひとりのめぐらせたいものが、豊かな社会につながる。加藤侑子さん×仲間暁子さん×松本綾弓
2024. 10. 21 10th_anniversaryWriting Hotaru Metsugi/Ayumi MatsumotoPhotoAyako Mizutani
2015年、「meguri(めぐり)」という名前の会社を立ち上げました。
心や体を/人から人へ/地域や社会に/未来へ向けて。さまざまな形で循環していく想いや物事を大事にする会社にしたい。言葉にするにはまだ漠然としていたけれど、でもたしかな想いから、meguriは始まりました。
そんなmeguriも、めぐりめぐって10周年。たくさんの人とめぐりあい、想いをめぐらせてきました。この節目に、meguriのパーパスを体現されているみなさまに、それぞれが大事にしている「めぐり」について聞いてみたいと思います。
第1回でお招きしたのは、ミャンマーでマイクロファイナンス事業を通して貧困問題に取り組む加藤侑子さんと、市場に出回らない規格外のフルーツ等も積極的に使いながら洋菓子をつくる仲間暁子さん。meguri代表・松本綾弓を交え、鼎談を行いました。
加藤侑子(かとう・ゆうこ)さん
幼少期に自ら体験した経済的困難などから「こどもたちが貧困によって涙することのない世界」 を目指し、ミャンマーでマイクロファイナンス機関「MJI Enterprise Co., Ltd.」を運営。金融を通じて、貧困削減・ジェンダー平等・教育機会の提供に取り組む。日本では、ミャンマーの融資先農家が育てるコーヒー販売事業「ミャンマー自由ノ農園」や、誰もが参加できる社会的投資「やさしいおかね」を促進する活動を実施。ミュージックセキュリティーズ株式会社、認定NPO法人Living in Peace、ワラムの3社で立ち上げた「LIPミャンマー貧困削減ファンド」には日本の個人投資家が合計700人、6千万円以上が参加。
仲間暁子(なかま・あきこ)さん
フルーツポンチ株式会社 代表取締役
2016年にチームビルディングを専門とした研修で起業する。チームワークは凸凹があるから面白いをモットーに、無人島サバイバルや転覆ハーリーレースなど沖縄の地と文化を生かしたユニークな研修を行う。コロナ禍で全ての研修がなくなり途方に暮れている中、お菓子屋さんをしたい!というメンバーと出会い2021年に新規事業として規格外フルーツを活用した洋菓子事業「うんてん洋菓子店」をスタート。リアルなチームビルディング真っ最中。
松本綾弓(まつもと・あゆみ)
株式会社meguri 代表取締役 幼少期より母が鬱病になり、生活保護を受けて暮らす。 16歳より働きはじめ、高校に通いながら小売業の採用・新店立上げ・店舗マネジメントを行う。その後、百貨店のテナントでチーフとなり、予算・前年比割れが一度もなく、次々と売上不振店を立直す。10年の販売職を経てIT業界に転職。物販審査管理部門の立上げ、地域に焦点を当てたマーケティング・プロモーションなどに従事。店舗の業務改善コンサルティングを中心とした事業展開で2014年独立。2015年株式会社meguriを創業
meguriが”めぐらせたいもの”は1つではない
加藤:今回は対談の相手にお呼びいただいてありがとうございます。実は私も仲間さんも創業から10年近くなので、このタイミングでの対談をとても嬉しく思います。それぞれの考える「めぐり」をお話する前に、まずはあゆみさんの考える「めぐり」はなにかお聞きしたいです。
松本:こちらこそありがとうございます。meguriは、「人間らしく豊かな社会を次世代へ」というパーパスの元、豊かな社会を目指す企業に向けてコンサルティングをさせていただいている会社です。
実は、創業時にmeguriのロゴを作ってくれたNOSIGNERの太刀川さんに「meguriがめぐらせたいものはなんだろうね?」と聞かれたとき、答えられなかったんです。10年経て、やっと私のなかで「人間らしく豊かな社会をつくるための、”めぐらせたいもの”の答えは1つではない」と腹落ちすることができて。
仲間:「meguriが考えるめぐらせたいもの」は、人や企業によってそれぞれってことかな?
松本:そうです。「一隅を照らす」という言葉がありますが、企業それぞれに自分の持ち場を照らすことが、社会をより良くしていく。meguri1社で社会にできることは限られていますが、クライアントを通して豊かな社会に寄与したいと思っています。
今考えると、当時は「めぐらせたいもの」を1つにしないといけないと思い込んでいたんだと思います。でも、崇高で唯一の「めぐり」を掲げてしまえば、嘘になる気がして。クライアントそれぞれのなかにある「めぐらせたいもの」をめぐらせることが、meguriがめぐらせたい「めぐり」なんじゃないかと今だから思えます。
加藤:なるほど、meguriの定義する「めぐり」は、何か特定のことをめぐらせるのではなく「めぐり」というフレームになっているようなイメージなんですね。
松本:そう、それで今回の企画では、これまでのクライアント・パートナーなどお世話になった方たちそれぞれが考える「めぐり」についてお話を聞かせていただきたいと考えています。今回はその第一歩目ですね。
それぞれの原体験から「めぐらせたいもの」がうまれてきた
松本:私にとっての「めぐり」についてお話しましたが、お二人の事業内容と、事業を通じて「めぐらせたいもの」「めぐらせる上で大切にしていること」も知りたいです。
加藤:私が経営している会社の主たる事業はマイクロファイナンスです。ミャンマーという東南アジアの新興国で事業をしており、農村に住む女性の零細事業者に向けて事業用資金の融資を金融トレーニングとあわせて行っています。ミャンマー農村の仕事というと一般的にはイメージが湧きにくいかもしれませんが、豚を1、2匹飼って育てて売ったり、自分の家の庭先でコーヒーや唐辛子の木を育てたり、川で採った魚を市場で売ったり、そんなお仕事です。
松本:なぜ独立されたんですか?
ミャンマー農村に住む女性の生活(加藤さん提供)
加藤:こどもの頃に親が事業に失敗して多額の借金をこしらえて自己破産をするというお金にまつわる嫌な経験をしました。たとえば借金取りからの追い込み、親の離別、お金がなくて「みんなと同じ」じゃないことからくるいじめだったり。そうした原体験から、貧困やお金を理由にこどもたちが涙することのないようにと考えてマイクロファイナンス事業に従事しました。
働いていくうちに、経営について発言権がないと志したことが貫けない、自分自身も自分を追い込んだ人たちと同じようになってしまうかもしれないという危機感を抱いて、5年目で独立をしました。
私がこの事業を通じてめぐらせたいものは、「お金」ですね。でも、ただお金を貸して返してくれればいいということではなく「やさしいおかね」をめぐらせたいと思っています。
仲間:「やさしいおかね」?
加藤:私が考える「やさしいおかね」とは、「お貸ししたお金が親や養育者の事業を後押して、その収入からこどもの教育投資がされるその一連の循環」のことを指しています。また、お預かりするお金にも色があると考えており、どんな想いが込められたお金なのか、そのお金をどのように必要としている人に届けるのかという点も大切にしています。
「お金に色はない」という考えもありますが、「お金に色がない」というのは、誰がどんな方法で稼いでも、使っても、お金はお金であるという意味ですよね。でも、「応援しているよ」と心を込めて手渡されたお金と、「貧乏人、拾え!」と投げられたお金って違うと思いませんか?
松本:全く違いますね。どのような背景や想いがあるお金なのかで、使いかたも変わると思うので、つまり、お金のめぐりかたが変わってくると思います。
松本:侑子さんがめぐらせたいものは「やさしいおかね」でしたが、仲間さんはいかがでしょうか?仲間さんはもともと人材開発や研修の会社を運営していらっしゃいましたよね、知らない間に洋菓子屋さんになっていました(笑)
仲間:そうなんです(笑)。コロナ禍で全ての研修がなくなり途方に暮れている中、ご縁があって、パティシエの運天さんたちに出会ったんです。「洋菓子店をやりたい!」とう強い気持ちに感銘を受けて洋菓子店をスタートさせました。
お菓子屋さんがメインの事業になってきたこともあり、第二創業として社名も「フルーツポンチ株式会社」に変更しました。社名には、多様なフルーツが一つのボウルに集まり、それぞれの個性を活かしながらも調和して一つの美味しさを生み出す「フルーツポンチ」のように、異なる個性や才能を持つ社員が集まり、それぞれの強みを活かしながら、協力し合い、素晴らしい製品やサービスを創り出すという想いを込めています。
昔から今まで一貫して、組織運営やチームビルディングにおいて、「凸凹を活かす」「それぞれが自分らしくいる」ことを大切にしていますが、そのためには安心できる環境が大事です。自分の気持ちも含め、仕事の循環の中に誰か1人でも嫌な気持ちになる人がいないこと、そして自分も含めて、「無理をしないこと」を大切にしています。
うんてん洋菓子店スタッスタッフ(うんてん洋菓子店提供)
たとえば、看板商品に「めぐるクッキー」という商品がありますが、こちらは「搾汁後さとうきび」を原料として使っています。通常は焼却処分されていますがミネラルや鉄分など栄養価もたくさん残っています。それをクッキーの原料として活用することで、お客様にとってもうれしいし、生産者さんも二次活用できてうれしい、自然な形でうれしい気持ちがめぐるお菓子づくりを心がけています。
でも、継続的な成長を求められるビジネスとめぐらせていくことの両立に難しさを感じた「卵黄と卵白問題」っていうのがあって……。
松本&加藤:……「卵黄と卵白問題」?
仲間:はい(笑)。シュークリームを作っていた時期に起こったことなのですが、シュークリーム作りをする際、カスタードに卵黄をたくさん使うので、卵白が余るんですよ。その卵白を活用して、フィナンシェを作ることになって。でも、逆にフィナンシェがたくさん売れるようになったら、次はシュークリームもたくさん作らなきゃいけない。どちらかに需要が偏ると、また問題が生じる。この調整に現場は追われて疲弊する。もう「どちらも一旦やめよう!」と判断したんです。もっと無理なく自然にうれしいがめぐる方法があるはずだし、スタッフが疲弊することはめぐるお菓子ではないよなと。
松本:経営をしていると当然ながら売上利益の追求が必要で、無理をするならやめるということを実行できることはすごいことだと思います。
仲間:運営する中でどこかに無理や誰かが辛い思いをしていると循環が崩れてしまうんですよね。でも売れるなら無理してでも売りたい(笑)気持ちもあり……
でもだからこそ、「いまちゃんとめぐっているのか」と自分たちの状況を客観的に確認することが重要だと感じています。
(うんてん洋菓子店提供)
「めぐらせられなかった」と思っていたのは自分のエゴ
松本:ここまでそれぞれの「めぐらせたいもの」についてお聞きしてきましたが、この10年の間で、「めぐらせたかったけれど、めぐらせられなかったもの」はありましたか?
加藤:私は2018年に会社を買い取る形で独立したのですが、その後まもなく、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大、さらに2021年、ミャンマーで軍事クーデターが起きました。独立後は成長を加速しようと資金調達をしてきましたが、もう成長どころではなくなってしまい……人生初の「内戦下で事業をする」のに精一杯の日々、それが正直な状態です。
松本:ミャンマーには私も訪問させていただき、侑子さんのマイクロファイナンスの現場を拝見させていただきましたので、内戦にはとても心が傷んでいます。
加藤:あゆみさんがミャンマーに来てくださったのが2019年。とても良い時期に来ていただきました。社内でソーシャルビジネスアイデアコンテストを行って、審査員をしてもらいましたね。私にもスタッフにも、本当に良い思い出です。
MJI Enterprise Co., Ltd.のミャンマー人経営幹部と加藤さん(加藤さん提供)
松本:あれから大きく情勢が変化し、まさに今めぐらせられていないんですね。
加藤:投資してくださった方々の大切なお金、託された想いをお預かりしている立場なので、軽々しく口にできることではありませんが、正しく言葉にするなら、今時点では「独立し資金調達をした当時に投資家の方にお示しした未来予想図」に行きつけていない状態です。このお題をいただいて、引いた目で見てみると、今の状態を「めぐっていない」と思うことは私のエゴかもしれないと感じました。
なぜなら、描いた未来予想図に行き着けていない一方で、救われている命があるのもまた事実です。内戦が激化して以降、村が焼き討ちにあって仕事どころではなくなった人、今日の米にも事欠く人が大勢いらっしゃいます。それでも「この1万円を借りて、また何か小さな仕事をして生きていける」という人が何千、何万といらっしゃる。
独立の当初に計画した事業成長や会計上の企業価値はありませんし、当初目指した量的成果に対して説明と行動をとり続ける責任はあるとは思っていますが、「やさしいおかね」はミャンマーの人々の生活の中をめぐりめぐって循環している、天啓を見ているような気持ちです。
仲間:加藤さん、実は私も同じように「エゴ」にたどり着いて。
そもそも「めぐる」ということは自分たちの意思とはまた別のところで起こっていて、その中に入って行っても邪魔にならず自然にめぐるような運営をしていくことが大事なはずだけど、「めぐらせたい」と考えている時点でエゴなのかなと思いました。
私たちが洋菓子店を始めたのは、「規格外だから安い」とか、「規格外=出来損ない」そういう価値観をなくしたかったからなんです。
でも、それを理解してくれるお客様ばかりではないし、そういう相反する価値観に対して悔しく感じたり、正しいことなのにわかってくれないと嘆いたりして……でも結局、それって自分の良いように状況をコントロールしようとしていたんですよね。「傲慢だったんだ」と気づきました。
だから、自分たちがどんな世界を作りたいのか、どんなめぐりの中にいるのかを忘れないようにして、その中でちゃんと邪魔せず元々あった循環を邪魔しないようにいることが大事なことだと思って、自分の姿勢を見つめ直しました。
松本:実は、私も同じ結論に至りました。お二人の話に深く共感します。
私の場合は、創業して3年目ぐらいのこと。ありがたいことに売上・利益も安定し、メンバーが15人くらいになりました。でもその頃から、「マネジメントする人」と「マネジメントされる人」のような組織の分断や依存がうまれた気がして、違和感を持ち始めていました。
クライアントの要望に応えたいと雇用の数を増やす、規模拡大を優先した結果、自律的でフラットでプロフェッショナルな関係性を構築できなかったんです。
目指したい組織・関係性は何かを徹底的に考え、現在のプラットフォーム型組織に移管することに決めました。シフトするまでの間は、せっかく集まってきてくれたメンバーが離れていくさみしさとか、会社の規模が小さくなったと思われたくないとか、そういう私のエゴがあって随分と葛藤もしました。さきほど侑子さんが言っていたように、その時点ではめぐっていなかったけど、結果的に違うめぐりになり、今につながっているんでしょうね。
仲間:それぞれ違う事業・背景をもっていますが、3人とも「エゴ」という結論にたどり着いているのがおもしろい。本来の目的を見失わず、等身大で取り組む。その姿勢が「めぐり」を生み出すのかもしれませんね。
これまでめぐらせてきたものを、未来に繋げていくために
松本:最後に、お二人がこれから「めぐらせていきたいこと」は何かを教えてください。
加藤:私はこれまで通り「やさしいおかね」を通じて、お金が届けられる先にいるこどもの涙をなくしていきます。その方法論や効果の判定についてはアップグレードしていく必要性を感じています。
具体的には、私たちはこれまで「親・養親が自分自身で収入を得て、子どもの教育に投資することが大切」だと考えて実践をしてきました。この10年間の実践データをもとに、こどもたちが貧困から抜け出すことができる道を学術的にも探り、広く伝えていきたいです。
それから、ミャンマーでは近年の戦火で孤児になってしまったこどもたちがたくさんいます。彼らには、今まで実践してきたファイナンスとは別のアプローチが必要なことは間違いないですし、エゴでない形と方法で、できることを探しているところです。孤児院みたいなものは自分らしくないなと感じるんですが、ミャンマーの農村では近所でこどもの養育に困っていると生活に余裕のある家族が扶養することにあまり抵抗はありません。ミャンマーらしいこどもと社会のつながりを模索しています。
仲間:私は何かを積極的にめぐらせるというより、すでにめぐっているものを邪魔しないように、お菓子を通じて自然な形でめぐるようにしたいです。多くの人が大好きなお菓子ならそれができると思っています。
おいしいお菓子を作ることはもちろんですが、規格外の農作物も積極的に使うことで、「規格外=出来損ない」みたいな価値観を無くしたいですし、食品ロスの問題や地域農業の課題にも目を向けてもらえるような、そんな優しい「めぐり」を自然な形でめぐるようにしていきたいです。
松本:私はこれからも豊かな社会をつくりたいと願う企業が「めぐらせたい」ものをよりめぐらせるサポートをしていきたいですね。
現状とありたい姿のギャップを埋めていくのが一般的なコンサルティングのイメージですが、コンサルティングは、最終的には「生き方を問う」仕事だなと思っています。ありたい姿を追求するということは、その人自身がどう生きたいか、価値観や原体験が反映されるからです。
加藤&仲間:「生き方を問う」! 素敵な仕事ですね。
松本:「生き方を問う」ってことは、「生き方を問われる」。だから、コンサルタントは常に自分の生き方に嘘をついていないのか?めぐっているのか?を確認していないとできない仕事だなとも実感しています。
それぞれの個人・企業の中にある大切にしたいことをめぐらせていく。それが地域、企業、社会へと、水の波紋のようにひろがり、やがて大きな社会変革につながってゆくんじゃないかなと思っています。
(鼎談ここまで)
それぞれが大切にしてきたもの、これからも大切にしつづけたいものに触れていただけたでしょうか。この記事を読んでくださったみなさんも、問いをめぐらせていただけたら嬉しいです。
「あなたがめぐらせたいものはなんですか?」
「それをどうめぐらせていきたいですか?」
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